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特別支援学校高等部に通う発達障害の息子の就活。内定は簡単ではない

この記事は50代の男性に書いていただきました。特別支援学校高等部に通う息子さんの就活についてです。

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 近年、発達障害に対する認知や関心は急速に広まっています。発達障害者支援法の施行もきっかけとなり、とりわけ障害がある子供たちへの療育や支援体制は手厚さを増しているようです。余暇活動を支える放課後デイサービスも法整備により急拡大しました。

 大変望ましいことですが、さて子供たちが学校を卒業した後はどうでしょう。思えば人生で子供時代は20年足らず。残りの50年、60年は「大人時代」なわけです。成人障害者への支援は果たして十分なのだろうか。自分の子育て体験も交え考えてみました。

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<成人障害者は増加傾向だが、受け皿は不足>

 私の長男は自閉症と重度の知的障害を持つ特別支援学校高等部2年生です。4歳で地元の公立保育所に受け入れてもらって以来、小、中、高と続いてきた「学校生活」もあと1年余りを残すのみとなりました。同級生は学年で約60人。再来年春の卒業後には、企業の障害者雇用、就労継続支援、生活介護施設などさまざまな進路へ歩み出します。

 現在2年生は「就活」の真っ最中です。進路指導に熱心な学校でもあり、中学時代から各施設への見学会を何度も開催。それを通じて希望する施設を決めると、高校では生徒一人一人が毎年数日~2週間のインターンシップを行い、教員と親が一体となって懸命に進路を探します。

 しかし就活をしても「内定」は簡単ではありません。長男がインターンに通う施設は定員20人ですが、現在既に27人が通所しています。他の施設も事情はほぼ同じです。施設ごとの概要を紹介する進路ガイドブックには「来年度の受け入れ枠はありません」「可能なのは1人」といった文言が多く並んでいます。なぜ定員が逼迫するのか。学校と違い「入り」ばかりで「出」がないからです。

 発達障害者ら知的障害者は近年増加傾向にあります。厚生労働省の調査では、知的障害児(者)の数は平成2年には約39万人であったものが、平成17年には約42万人に増加しています。このうち在宅の18歳以上は約29万人に上ると推計されています。

 長男が通う市内唯一の特別支援学校も、ここ5年毎年60~80人が卒業しており、この傾向は続く見込みです。つまり成人の障害者は右肩上がりで地域の中に増えていく形となるわけです。既に、市内在住の療育手帳所持者のうち三分の二が20歳以上で、さらにその半数以上が中重度の障害者とのデータもあります。

 一方で成人を受け入れる施設は十分とはいえません。市内には計約70カ所の障害者通所、入所施設がありますが、前述のように多くの施設は既に定員オーバーな中で何とか新規入所者を受け入れているのが実態です。

 市では3カ年の障害福祉事業計画で施設拡充の必要をうたっていますが、子供と違い大人の支援は労力がかかることもあり、人材難や経営面の問題から施設が増える傾向にはなかなか向かいません。

<重要な施設との相性。帰宅後の課題も>

 就活の末に入所できたとしても施設で上手くやっていけるのかという問題が後に現れます。発達障害者は他人との関わりが難しく、こだわり行動や感覚過敏も併せ持つため、とりわけ集団での作業が苦手という側面があります。

 長男も聴覚過敏があり、現在もほとんどの場面で防音イヤーマフを着けていないと落ち着きません。他人の大きな声などを聞くとパニックを起こしてしまい、人を叩いてしまうことすらあります。学校でも過去にも数度、同級生らに軽いけがを負わせた事件がありました。施設に入った後で馴染むことができるか、親としては不安がぬぐえません。

 実際に、入所者同士のトラブルや「仕事に慣れない」と数年で退所してしまう例を耳にします。パニックを抑えようと、精神科医の指示で服用する向精神薬を増量したところ、かえって日中を通じ全く動けなくなり、口を半開きにしたまま椅子に座るだけの毎日になってしまったと涙ながらに語る先輩の親御さんもいます。

 また成人には帰宅後の問題もあります。福祉施設はどこもおおむね朝9時から午後3時まで。一日が学校より2、3時間短いのです。学校では、さまざまなデイサービスを利用することで放課後も充実した余暇を送ることができます。長男も週3回送迎付きのサービスを利用し、アウトドアや映画鑑賞などバラエティに富んだ活動を楽しんできました。しかし成人の場合はそうしたサービスはほとんどないのが現状です。

 ある大学の調査によれば「夜や休日には親しか過ごす人がいない」「テレビだけが頼り」という成人障害者は少なくないそうです。障害福祉の研究者は「障害者が生まれ育った土地で暮らし自立するために余暇は重要。家族以外の援助者が関わる活動を行政やボランティアが保障していく必要がある」と指摘しています。

<親亡き後への願い>

 最近は、生きにくさを感じながら大学や会社に通う「大人のアスペルガー」もクローズアップされています。困難さ、態様が十人十色、千差万別なのがこの障害の難しいところです。ただ唯一、誰しも変わらないことは、親は子より先に世を去るであろうという現実です。

 「親亡き後」も変わらずこの子らしく人生を送ってほしい。大人の発達障害者へのより充実した支援を行政や地域に願うのは、親御さん共通の切なる思いなのではないでしょうか。

[参考記事]
「特別支援学校高等部ではどんな学習や支援が行われるのか」

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