この記事は「自閉症専門のサッカースクールの指導で気を付けている3つの事」の続きです。事例はサッカーですが、習い事全般に言えることです。
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私は現在自閉症を持つ人達の為のサッカースクールを運営していて、下は小学一年生から上は26歳までの生徒が在籍しています。スクールには現在沢山の生徒が在籍していて、それぞれ特徴のある人達が一緒に楽しく一つのボールを追っかけています。
今日皆さんにお話しするのは、私がサッカースクールを運営するうえで重要な転機となった、タクヤ君(仮名)についてです。
好きなスポーツは、、、野球!?
私が自閉症を持つ人のサッカースクールを設立してちょうど半年ぐらいが過ぎた頃、ジャイアンツのユニフォームを着た坊主頭の小学校高学年ぐらいの男の子がお母さんに連れられて私のサッカー教室に現れました。それが、今回のお話の主人公であるタクヤ君と私の最初の出会いでした。
「あれ、この子サッカーよりも野球の方が好きなんじゃないかな」と思った私は、タクヤ君に「初めまして!タクヤ君の好きなスポーツは何かな?」と聞いてみたところ「野球!」と満面の笑みで答えてくれました。(ちょっとショックだったりもしました、、、(笑))
「嫌だ、、、帰る、、、」
そんな野球少年のタクヤ君と一緒に、サッカースクールを始めようとすると、タクヤ君はきょとんとした顔で私に、「野球は?」と聞いてきました。
「野球はやらないよ。代わりにサッカーやろ?」と私がタクヤ君に言うと、タクヤ君の顔はみるみる曇りだし、次第には「嫌だ、、、帰る、、、」と泣き出してしまいました。
「ほらタクヤ泣くんじゃないの。サッカーやりなさい」とお母さんが言うものの、タクヤ君は「嫌だ、、、帰る、、、」の一点張りでした。後にタクヤ君のお母さんから聞いたのですが、どうやらお母さんはタクヤ君に野球をやりに行くよと告げて私のサッカースクールに訪れたようです。
「ちゃんとタクヤにサッカーをやらせてください」
衝撃的な事実を知ったタクヤ君でしたが、10分ほどしたらしぶしぶボールを蹴り始めました。しかし、しばらくしてまた「嫌だ、、、」と泣き出してしまいました。
そんなタクヤ君を見ていたタクヤ君のお母さんは、「タクヤ泣かないでサッカーやりなさい」としまいには怒こりだしてしまいました。見かねて私は、「今日は見学なんで無理に参加しないでも大丈夫ですよ」とお母さんに言うと、「それじゃタクヤの為にならないんです。ちゃんとタクヤにサッカーをやらせてください」と言われてしまいました。しょうがないので、私は心を鬼にしてタクヤ君にサッカーをやらせました。
「スポーツやりたくない、、、」
体験に来てから一週間後、タクヤ君を正式にサッカースクールへと入会させたいという連絡がタクヤ君のお母さまからあり、この日からタクヤ君は正式にサッカースクールへと入会いたしました。
入会してから最初の一、二カ月はタクヤ君もスクールにしぶしぶ参加していたものの、次第にスクールに遅刻するようになり、最終的にはスクールに来なくなってしまいました。気になった私は、タクヤ君のお家へとお電話を差し上げたところ、タクヤ君はスポーツが嫌になってしまっていたのです。
無理矢理やらせない
タクヤ君をスポーツ嫌いにさせてしまったのは私やタクヤ君のお母さんが無理矢理タクヤ君にサッカーをやらせていたからです。
タクヤ君のお母さんにタクヤ君をサッカー教室に入会させた理由を聞いたところ「障害のあるタクヤ君にもスポーツの楽しさを理解してほしかったから」という事。そして無理矢理やらせたのは「タクヤがサッカーを嫌がる理由が自閉症が原因だと思ったから」と言われました。
確かに、タクヤ君のお母さんのように「障害を改善させよう」と無理矢理やらせてしまう気持ちも理解できます。しかし、忘れてはいけないのは障害がある以前に、彼等にも感情があり、自分の意思を持っているという事です。こんな当たり前の事を、どうしても忘れてしまうのかもしれません。
タクヤ君、そしてサッカースクールのその後
その後、たくや君をどうにか説得してサッカースクールに来てもらうようになりました。私はタクヤ君にあった野球の動きを取り入れたサッカーの練習メニューを作りました。同時にお母さんと話してタクヤ君が嫌がるときは無理矢理はやらせないように心掛けるようになりました。
出会ってから6年、大きくなったジャイアンツのユニフォームを着た少年は、一回り大きなジャイアンツのユニフォームを着ながら今でも元気にサッカーボールを追っかけています。
[参考記事]
「高機能自閉症の娘について。自傷行為、便で遊ぶなど」