発達障害の人は二次障害を抱えているケースも少なくありません。二次障害の代表的な症状がうつですが、この記事を書いた女性もそうでした。今は認知行動療法により回復傾向にあります。その辺の経緯を書いていただきました。
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先日、大きめの本屋さんに行った際、とある本の紹介コーナーに目が行きました。テーマは「発達障害」、私はあまり流行には敏感ではありませんが、発達障害について少しでも多くの人に知ってもらえるのは当事者としては嬉しいことです。
私が発達障害だと診断されたのは、20歳の誕生日を過ぎてすぐのことでした。そのときは、大学生活の真只中。「私は周りの友達と何かが違う」そう思ったのは大学生になってからではありません。ちょうど、思春期というのでしょうか、中学、高校時代の“ふつう”を意識し出す頃からきっと、私は無理をして周りに合わせていたのだと思います。
それが限界に達したとき、藁にも縋る思いで精神科に行ったところ、自分が何と戦っていたのかわかったのです。「ADHD(注意欠如/多動性障害)」そして、二次障害としての「不安障害」「うつ」です。これでもかというくらい、現実に突きつけられた衝撃は大きかったです。まさか、障害だとは思ってもいませんでしたので。
発達障害に関する書籍なんかを読みますと、「診断されたときはほっとした」なんて書いてあったりしますが、私はいまいちその気持ちがわかりません。
腑に落ちていたのは父親や母親で、私なんかはますます窮地に追い込まれていきました。その後はやむ負えなく大学を中退。その頃はめっきり二次障害による「うつ」「不安障害」により参ってしまっていたので、見かねた両親が、田舎の実家へと私を強制送還したのでした。
二次障害として発した二つの病気の説明をすると、不安障害とは、不快感や疲労感、イライラ、短気、落ち着きのなさ、判断力の低下なども見られる病気です。私の場合は、大学のキャンパスにいるだけで落ち着かなくなり、通学の電車に乗るのも怖くなり、そして、帰り道には「誰かにつけられている」と本気で思いこんでいました。
また、発達障害を持つ人は、周りとの関係により強いストレスを受ける傾向があり、うつ状態やうつ病になりやすい傾向があるそうです。アスペルガー症候群やADHDの方の中には、努力をしているのにもかかわらず、努力相当の結果が出ず、そのことで焦り、神経をすり減らし、自分を責め続けることで、うつ病にまで発展する人も多いのです。これが二次障害というものです。
薬での治療が始まる
実家へ帰省した私ですが、紹介された精神科に通いながら、毎日を布団の中で過ごしていました。そのとき通っていた病院の規模は小さく、発達障害の薬を処方することができなかったので、もっと大きな病院に移ることに。この病院が私自身と非常に相性がよく、私はめきめきと回復をしていきました。
理由は三つ。一つ目は、ストラテラというADHDに適した薬を処方されるようになったこと(発達障害の中でも薬物治療はADHDだけ)。
ストラテラは、非常に高価なお薬で、腹痛、抑うつなどの副作用を引き起こす可能性もあります。その上、担当医からは「10人いても10人全員に効果の出る薬ではないことを念頭に置いておいてください」と言われていました。
つまり、「体には良くない薬で、高価なのに、効果が出るか分からないし、抑うつになるかもしれない」と言うことです。しかし、経済的負担は大きかったものの、どうしてもADHDと根本的に向き合いたかった私は、それをすぐに承諾。ストラテラの処方が始まりました。
大きな変化が現れたのは、服用してから3週間ほど経ってからのこと。今まで頭の中に合ったごちゃごちゃと整理しきれない感じ(私はノイズと呼んでいます)がスーッと消えていったのです。これは、私にとってはとても大きな変化でした。
ですがその一方で、前述で述べた通り、副作用として食用不振に陥り、体力が以前より大分落ちてしまったことも事実です。副作用が将来、どのようなダメージを体に与えるのかは分かりませんので、ずっと飲むことはありません。
二つ目は、その病院では、担当医と臨床心理士の連携がきちんとなされていたこと(臨床心理士には二次障害などの治療のために認知行動療法をやってもらっています)。前の病院では、治療は治療、カウンセリングはカウンセリング、といった形でした。
ですが、今通っている病院では、担当医と臨床心理士の間の情報の交換がきちんと行われていたので(臨床心理士の方には毎回どこまでは担当医に話しても良いか聞かれていました)、担当医と少し隔たりができたときも、臨床心理士の方に相談することでそれが解消したりと、先生方との関係が上手くいくようになりました。
三つめは、ADHDの代表的なお薬の二つ目、コンサータの処方が始まったことです。これは、ストラテラの処方量が安定してきたことと、日中、あまり物事に集中できず、夜眠れない状態が続いていたことから、昼間、元気に過ごして、夜ぐっすりと眠れるようにしようという担当医からの提案でした。
結果は日中とても活動的になっていきました。とはいえ、初めのうちは、薬によるオンとオフの状態の変化が激しく、薬に慣れるまでには、効果が出始めてから一か月もの月日がかかりました。
また、コンサータは睡眠障害や幻覚などを引き起こす可能性があるので、服用時間をしっかりと管理しなければなりません。それだけ強い薬なので、処方については、ネットで情報を収集しながら担当医としっかり相談し、十分に検討する必要があると思います。
今は認知行動療法の効果で二次障害による不安障害やうつ傾向は回復傾向にあります。
認知行動療法を行う
ここで、一冊の本を紹介したいと思います。「いやな気分よさようなら」デビット・D・バーンズ著 星和書店出版、です。とても分厚い本ですが、私はこの本の中の“認知のゆがみの定義”というところを読んで、「自分のうつは治すことができるかもしれない」と前向きに考えられました。そして、これはすごく重要なことだったようで、担当医からも「それに気づくことは大きな一歩だ」といわれました。
なぜ、私がうつ病と向き合いたい、治したいとこの本で思うことができたのかというと、その内容が自分の考え方の偏りに気付かせてくれるもので、また、それによる思考が自分自身を苦しめていたことに気付いたからです。
例えば、定義の一つに「心のフィルター」というものがあります。これは、良いことが多くあるのに、悪い箇所にだけ目がいってしまうことです。
私の場合、日中映画を観たり、外に出かけたりと楽しい時間を過ごしたのに、夕方になって、誰かに言われたたった一言でひどく落ち込み、寝る前には「今日は最悪な一日だった」と締めくくってしまうことがよくありました。それはまるで、たった一滴の墨汁がコップ全体の色を黒くしてしまうようなものです。
一日の中ではいいこともあれば、もちろん悪いこともあるでしょう。でも、悪い面だけにとらわれて、毎日を否定してしまったら、これから先の人生を明るく考えることもできなくなってしまいますよね。この、自分の“認知”が自身の“世界の見方”を決めるものなんだと気づいたことは私にとって大きな変化でした。
今は臨床心理士の方と一緒にこの認知行動療法を週に一回のカウンセリングで行い、担当医の方ともいい関係を築くことができています。やはり、薬は所詮薬であり、認識のゆがみまでは修正できません。
そういう意味で認知行動療法は私にとって一番大事な治療です。将来の夢もでき、今はそれをかなえるために、どうやって社会に復帰をするか四苦八苦しているところです。
きっと今発達障害で悩んでいる方も、またその保護者の方や周りで接する方も、いろんなことに悩んでいると思います。でも、一番大事なのは当事者本人が、発達障害と上手く付き合っていこうと割り切れることだと私は思います。発達障害は自分の一部です。過去の自分を否定したくなる時もありますが、むしろ“過去の自分”を“今の自分”が守ってあげることが大切です。それは今の自分を尊重することにもつながります。
「どうしてあんなことをしてしまったのだろう」「どうしてこんな結果になってしまったのだろう」といつまでも自分を責めないで、「あのときはあれが精一杯だった」「十分に頑張っていた」と肯定してあげてください。そうしたら過去の見方が変わって、だんだんと今を見ることができるはずです。
発達障害であるということは、自分の中で大きな不安と焦りの原因になりますので、それが無くなれば二次障害も防げます。「自己肯定感を育てる」これは発達障害にとってはすごく大事なことです。
[参考記事]
「自閉症の息子は行動療法(療育)で大きく成長をしました」