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ADHDの新入社員が入社して来たら、どんな指導をすべきか

 

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■新入社員…緊張しているだけかと思っていたけど

 私は接客の仕事をしています。ある年、数年ぶりに新入社員が入ってきました。4年制大学を卒業した女の子で、おとなしいというか、反応に乏しい印象でしたが、きっと緊張しているのだろう、慣れれば力を発揮してくれるだろうと思っていました。教育係は私になりました。ひさびさの新人、大事に育ててくださいね、と人事部から言われ、私もしっかり指導しようと思っていました。

 しかし、次々に問題が起きてしまうのです。最も困ったのが、お客様対応の問題です。お客様と約束した日時に連絡したり、商品の手配をすることを忘れてしまうのです。また細かい作業が極度に苦手で、梱包、包装作業が遅い上に綺麗に仕上がりません。クレームをいただいたことも一度や二度ではありませんでした。

 作業の手順が覚えられず、何度も同じミスを繰り返しますし、複数の仕事を同時に行うとどれも終わりません。スタッフ間の会話も微妙に噛み合わず、連携がうまく取れていないことも問題でした。他スタッフが彼女のフォローをすることも多く、半年、1年とたっても一向に進歩、改善が見られない彼女に対して、職場内のいらだちも強くなっていきました。

■もしかして発達障害(ADHD)?

 ちょうど息子が発達検査を受け、ADHD(不注意優勢型)とLD(学習障害)傾向を指摘された頃でした。息子は今その時を生きている、という感じで、過去の経験から学ぶこともできなければ、先のことを考えて計画的に行動することもできません。やるべきことがわかれば真面目に取り組みますが、今日やらなければいけないこと(宿題など)、すぐでなくでもいいこと(プリントの整理など)の優先順位は意識できないようです。部屋の掃除に集中していたので感心していたら、その日の宿題は手付かずだったりすることはしばしばです。 

 考えてみると彼女の状況は息子に似ている部分がたくさんありました。大学を出ているのだからLDではないにせよ、会話をしていてもどこか上の空で話が噛み合わない、極度に忘れっぽい、不器用、そして素直で真面目な点も共通しています。であるならば、息子の通級やペアレント・トレーニングで得た知識が、彼女の指導に役立つのではないかと私は考えました。

■指導方法を考えてみた

 まず、環境の整備です。指導をする際の対策として、

・静かな場所で、マンツーマンで指導→人の声や音に引っ張られて気が散ってしまうことを防ぐため

・短めに、要点を話す→話が長いと忘れてしまうし、耳から入る情報をキャッチする力が弱いため

・冷静に、一定のトーンで→感情的に怒ると「怒られたこと」に注意が行き、肝心の話が聞こえなくなるため

・文章や絵を交えた資料を作成し、それを使って説明→目から入る情報をキャッチする力はそれなりにあるため

 次に、具体的な仕事の進め方を考えました。仕事の全体量、納期を一目瞭然にすることで、優先順位をつけやすくできるのではないかと思い、

①クリップボードを用意し、やること1件につきメモを1枚作成し、貼っていく。本日中、数日中、長期 と納期によって貼る場所を分ける。特に重要な業務には印をつける。

②出勤時、昼食前、退勤時と1日3回チェックして漏れがないか二人で確認、終わったらはがす。毎日、決まった時間に決まったチェックを行い、定着を狙う。

運用してみると、

・メモを書くこと自体を忘れる→後回しにした結果、忘れる

・メモを書いたけれどもボードに貼る前に、電話応対や接客をしてしまい、どこかに置き忘れる、メモの貼り方が悪くて紛失する

と、「忘れる」「なくす」問題が発生しました。

 ですが、本人曰く受験勉強など暗記はむしろ得意だったと言うくらいですし、繰り返し繰り返し行って定着させれば、その後は忘れることはないのではないかと期待して、継続していきました。

■周囲の目は厳しく…

 約2年間指導を続け、少しずつ「忘れない」システム作りは進んでいき、2年前に比べれば彼女なりに格段に進歩していました。ただ、小さなミスを繰り返すのは相変わらずでした。

 進歩はしていますが、周囲の目はより厳しくなり「迷惑をかけられるくらいなら、何もやらせない方がいいのではないか」との声が上がり、上司は、彼女への指導に時間を取られて、私が本来やるべき仕事がなされていないのではないかと指摘してきました。彼女は部署にとってマイナスである、との結論でした。人事部も動き出しました。

 彼女にはおそらくADHD傾向はあるけれども、医者でもなんでもない私から、それを上司なり人事部なりに進言するのはちょっと違うかなと私は悩みました。万が一本人から申告があったところで、今の部署で何か配慮されるかと言うと現実的には難しいとも思いました。

 私は彼女を食事に誘い、息子が巻き起こす数々のADHDエピソードを語りました。最後に「それでね、うちの子とあなたって似ていると思うの。本やネットで色々な情報が得られるし、対策も書いてあると思うから」。彼女は「ありがとうございます」とだけ言いました。結局、私は彼女の教育係を外され、彼女は今、人事部と面談をし今後について相談しているとのことです。

■彼女を通して、息子の将来を見ていた

 受験をして大学に合格し、卒業して、一般企業に新入社員として入社できた彼女は、発達障害児を育てている私からしたらまさに希望です。社会人として立派に生きています。でも「一般的な人間」とは違うことで、排除されてしまうかもしれない、社会の相変わらずの構造(差別や無理解)に失望と恐れがあります。就職はゴールではないのだと、彼女を見て思いました。

 息子が社会に出ることがとても不安です。どんな環境でどんな仕事をしたら、自分らしく生きていけるのでしょうか。そのためにはどんな能力を磨いておけばいいのでしょうか。理解してくれる人、協力してくれる人はどのように見つけたらいいのでしょうか。

 私は彼女の成長を最後まで見届けることができなかったけれど、息子については違います。息子が社会に出るまで約10年、親として毎日、彼の将来を考えていきます。

[参考記事]
「ADHDで動作性IQの低い私のアルバイトでのつまずき」

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