この記事は30代の女性に、「兄が就労継続支援A型で働くまでの経緯」について書いていただきました。彼女の兄は軽度の発達障害があります。
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私の兄は現在、就労継続支援A型の事業所である食品加工の会社に勤務しています。毎日、元気に職場に通っていますが、就職までの道のりは兄にとっても家族にとっても平坦な道のりではありませんでした。
就労継続支援A型とは
通常の事業所に雇用されることが困難であり、雇用契約に基づく就労が可能である者に対して、雇用契約の締結等による就労の機会の提供及び生産活動の機会の提供その他の就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練等の支援を行う。
厚生労働省のサイトから引用
兄は、小学校、中学校、高校、短期大学と普通の進路をたどってきました。就職活動の時期になり、就職先を探す中でインターンシップ制度に参加したことがありました。インターンシップに参加すると実際にその仕事に関わることになりますが、インターンシップ生ということもあり、兄は、簡単な事務作業を任されました。
しかし、与えられた制限時間内に効率的な事務作業を進められない、きちんと指示された仕事をこなせないことを指摘されたようです。インターンシップに参加できたものの、本就職にはつながりませんでした。この後の数社の就職先を探しましたが、内定が出ないまま時間だけが過ぎていったのでした。
今考えると、1つの作業を効率的に進められないことや2つの作業を同時にすること、指示を聞いて瞬時に相手の要求していることを読み取ることがもともと兄は苦手だったように思います。兄は兄なりに懸命にこれまで頑張り、これらの欠点をカバーしてきました。しかし、就職を決める段階になり、これらの能力的な欠点が表面に出てきて、就職活動をより困難なものにしていきました。面接では当然、面接官の質問に的確に答えなくてはいけませんが、これらのことが難しかったようです。
くまもと若者ステーションで相談
そこで、頼ったのは「くまもと若者ステーション」でした。この団体は、働くことになかなか一歩を踏み出せない若者(15歳~39歳までの若者無業者)の就労を支援する目的で運営されている団体です。たまたま、兄の就職のことで私自身も思い悩んでいた時に、インターネットでこの団体の存在を見つけました。私は兄に「一度、この団体を訪ねて就職の相談をしてきてはどうか」と提案しました。ここでの相談で就職の糸口が何か見つからないかと考えたからです。くまもと若者ステーションへの相談には私も同行することにしました。
今までの就職活動の経過や兄自身がうまくいかない点などを若者ステーションのスタッフの方に相談しました。すると意外な答えが返ってきました。
「人の指示をもとに効率的な行動が取れない、2つ同時に物事をうまく進められないなどのことは自分の努力不足ではなく、能力的な偏りがあるかもしれないので一度、検査してみてはどうでしょうか」ということでした。
このような話の展開になると思わず相談していたので驚きました。兄が仕事をしていく上でどうしてもできないと思っていたことが自分の努力の範囲では解決できないものであったのかもしれないという思いがけないことを耳にし、少し戸惑ったことを覚えています。
スタッフの指示どおりに発達の検査を療育センターに行き、発達検査を受けました。数日後、結果が出ました。発達に遅れがあるということで学習能力や判断能力が軽度に遅れているとのことでした。兄自身はその結果を聞いてどう思ったのでしょうか。後に兄に聞くと「やっぱりな」と思ったと言います。その「やっぱりな」という言葉を私は忘れることができません。
兄自身がうまくいかない日頃から感じていたことは、兄の努力不足ではなく、発達の問題であったということが分かったことで兄も私もホッとした気持ちとこれからどうすればいいのだろうという不安の入り混じる気持ちとなりました。
就労継続支援A型で仕事を見つける
この結果を受けて、就職活動は根本的に考え直すきっかけとなりました。若者ステーションのスタッフによると、このまま就職先を探し、仮に見つけたとしても就職先で困難な目に合うことはかなりの確率であるとのことでした。兄の能力的な部分や苦手としている部分も受け入れた上での就職先を見つけた方が長い目で見ればよいのではないかというお話でした。それならば、この結果をもとにしてまず療育手帳を申請して、自分の能力にあった就職先を見つける方が良いとのことでした。
この数日後、療育センターを通じて療育手帳の申請を行いました。その後、手帳が交付されB2との判定がありました。その手帳を活用し、就労継続支援A型の事業所である現在の食品加工会社を見つけ応募、その後働き始めることになりました。
療育手帳を取得できたことは兄の仕事先を見つける意味でも大きな意義がありました。療育手帳を取得したことで今まで自分の努力不足でできていないと思っていたことが実は違うということが客観的にも分かりました。そして、何よりもそんな兄自身の持っている能力を理解した上で受け入れ、出会えたのが今の会社です。就職の糸口が見つからないまま、家族も私も兄自身も悶々としていた以前の状況よりは積極的に動いてよかったと思えています。
兄のように大人になってから療育手帳の取得をするケースはめずらしいのかもしれませんが、こういったケースもあることを知っていただければと思います。そして、今の会社に勤めるまでの道のりは平坦なものではなかったですが、この経過でたどり着いたことは結果的には大変良かったと感じています。
兄の就職への一歩になるきっかけをくださったくまもと若者ステーションの方には感謝の気持ちでいっぱいです。兄のように何かをきっかけにして自分の前の閉ざされていると思っていた道が開けることもあると思います。まずは何ごとも積極的に動いでいくことが大切だと改めて感じました。
就職活動は就職した後の方が大切です。兄にとって長い目で見た時に、今回の選択はベストだったのではないかと思います。能力的に苦手としている部分を分かった上で受け入れてもらえる就職先が見つかったことは本当に良かったです。今後も私なりに兄のことをサポートできればと思います。
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